人体は跡形もなく骨片化し、当時から塩水湖だった死海から大量の塩分が析出。半径25km以上の地域にある120の集落に降り注いだ、この地域ではその後300~600年農業ができなかったと推測される。詳細に遺跡を検証すると、南西から北東に極めて強力な爆風が発生し、地表温度が2500度以上に達するとともに強烈な爆風がこれらの都市を襲った。
比較的損傷の少ない遺骨も多くは原型を留めないほど破壊され、高さ10~15mの泥レンガの建物や城壁も圧壊されただけでなく、炭素から高温によってのみ形成されるナノダイヤモンドやダイヤモンド様粒子が見つかったという。
同じころに戦争で破壊されたジェリコやトロイア戦争の遺跡ではやはり火事の痕跡はあるものの、鏃(やじり)や投石が発掘されるが、ここではこういった人為的な破壊の後は見られない。おそらくは直径50~70mくらいの隕石が大気圏を通り過ぎて地表近くで爆発した、ツングースカ隕石と同じかそれを上回る天体衝突だったらしい。
■破壊の理由付け
人間というのは良いことも悪いことも何らかの理由付けを求めるという性質がある。
理不尽な天災に対し、当時の人々が考えたのはその土地に住む人々が何か悪いことをして神の怒りに触れたのではないかということである。当時の人々は堕落した町が悪かったからだという話に展開していったのだろう。現在ではこういった発想は少なくとも文明国ではなくなってきたが、筆者が子どもだった昭和30~40年代は、神社仏閣や教会、仏壇、神棚に悪戯や不敬なことをすると「バチが当たる」といって祖父母や学校の先生に怒られたものである。
それはそれとして,同性愛や性認識は遺伝子や認知機構による人間の多様性の一つであり、もし、当時のソドムとゴモラで同性愛が一般的であったとしても、その人々それ以外の人々も滅ぼされてよいということにはならない。その意味で、自然災害を同性愛に対する天罰と理由づけた昔の宗教家の罪は大きいとしか言いようがない。
◯早川 智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など
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