『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師が、歴史上の偉人や出来事を独自の視点で分析。今回は古代都市を襲った隕石について「診断」する。
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旧約聖書の創世記に「ソドムとゴモラ」という話がある。死海のほとりソドムとゴモラの町は大変栄えていたが、性的放縦の都市であった(ことになっている)。後世、ソドミー(男色、獣姦)という言葉ができたが、この伝承に由来する。ノアの洪水でほとんどの生き物を滅ぼした恐ろしい旧約聖書の神は、(水で滅ぼすことはないと民に約束したので)今回は火で滅ぼすことにした。どちらも迷惑な話であるが、神様は約束を律義に守るのである。
「主は硫黄と火とを主の所すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて、これらの町と、すべての低地と、その町々のすべての住民と、その地にはえている物を、ことごとく滅された。しかしロトの妻はうしろを顧みたので塩の柱になった」
この悲劇については、様々な解釈がなされ、絵画や映画の題材にもなってきた。多くはヴェスヴィオ火山の噴火によるポンペイの滅亡と同様のイメージであるが、我が国と同じように火山国であるイタリアと違い、死海の周りに活火山はない。空から降ってくるというと、隕石か彗星であるがはっきりした考古学的な証拠はなかった。
■隕石の衝突
今年の9月20日になって、「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に驚くべき考古学的発見が報告された。
紀元前1650年に、死海の北東に位置するヨルダン渓谷の南部にある中青銅器時代の都市トール・エル・ハマム(Tall el-Hammam)が、直径50m隕石によって破壊された痕跡が見つかったというのである。この爆発は広島型原爆の1000倍のエネルギーがあり、市街地全体に1.5mの厚さで、衝撃を受けた石英、溶けた陶器や泥の塊、ダイヤモンド様炭素、煤(すす)、鉄とSi(ケイ素)に富む球状物質などが検出されたという。