他の企業は、未接種の社員に対し、毎週PCR検査を受けさせるか、自宅勤務、あるいは社内での「隔離」勤務で対応している。しかし、中小企業の中では、PCR検査の費用負担などについて疑問の声が上がる。
中西部ミシガン州にあるクッキー製造会社エセルズ・ベイキングの最高経営責任者(CEO)、ジル・ボマリートは、従業員の90%がワクチン接種を終えた、と明かした。それでもランチタイムの時間をずらし、マスクの着用を義務づけ、製造の社員以外は自宅勤務としている。ワクチンを社員に義務づけることはしなかったが、
「1年半厳しい環境で、私たちはお互いが家族だから、安全と健康が一番大切。お互いのことを気遣おう、と強調してきたのが、功を奏した」
と、米紙ワシントン・ポストのオンラインイベントでワクチン接種を社員に浸透させるための苦労話を明かした。
それでも、米国全体では、新型コロナの感染状況は大幅に改善しているわけではない。8月にデルタ株の影響で急増した新規感染者数は減少に転じたものの、9月28日現在、1日あたり11万4千人超が感染、死亡者は約2千人。昨年春から、国民の470人に1人が死亡したことになる。
これは、州によってマスクの着用やワクチンの接種率に大きな隔たりがあるためだ。全米の成人でワクチンを完了した割合は67%。これがニューヨーク州では74.5%なのに対し、保守的な中東部ケンタッキー州では44%と大きな差がある。ニューヨーク州内でも、宗教的な理由で、ワクチンを拒否している市民が多い地域や郡の接種率は30%程度にとどまる(米紙ニューヨーク・タイムズによる)。全米の接種率が頭打ちになっている理由だ。(文中一部敬称略)(ジャーナリスト・津山恵子)
※AERA 2021年10月11日号より抜粋