CDC発行のワクチン・パスポートの白いカードを点検する店員のレイエス(左)。正式なパスポートと呼ぶより「カードありますか?」と尋ねることが多い(筆者撮影)
CDC発行のワクチン・パスポートの白いカードを点検する店員のレイエス(左)。正式なパスポートと呼ぶより「カードありますか?」と尋ねることが多い(筆者撮影)
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 新型コロナウイルスに対するワクチンの接種を拒否すると会社は「クビ」。接種証明がないと、レストラン、劇場、ジムにも入れない。日本に先駆けてワクチン接種証明義務化が進む米ニューヨークの日常は──。AERA 2021年10月11日号で紹介する。

【写真】店先にはワクチン・パスポートが必要であることを知らせるポスターが一斉に貼り出され…

*  *  *

 米ニューヨーク市内のメキシカンレストラン「ハングリー・ブリート」に、若いカップルが入ってきた。

店員「ワクチンは終わってますよね」

客「僕は終わった。ガールフレンドは、1回目だけ。中でもいいよね」

店員「中はダメです」

客「僕らは食事する権利がある」

店員「それなら、食事を出さない権利がある」

客「じゃ、外で食べるよ!」

 こんなやり取りを店で耳にした。同市内では8月17日から、12歳以上の市民はワクチン接種証明(ワクチン・パスポート)を、屋内の飲食、ジム、映画館、コンサート、クラブなどで見せることが義務化された。接種した医療機関から出される白いカードの他、名前や接種年月日などを入力するスマホのアプリで示すこともできる。

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 ハングリー・ブリートのベテランサーバー、エルネスト・レイエス(46)は、あきらめ顔で言う。

「外の席に座りたがるお客は、みなワクチン接種をしていないか1回目が終わっただけなのではないかと思う」

 レストランやバーは昨年から、屋外の席を設けることが許可されており、ワクチン・パスポート提示が義務化されても100%安全ではない可能性がある。

 9月13日からは、ワクチン・パスをお客に求める規則に従わなかった場合、1回1千ドルからの罰金が科せられた。筆者の近所の小さなカフェ兼ベーカリーには、すでに2回も調査官が来たという。コーヒー1杯が2ドルのカフェで、1千ドルもの罰金は厳しい措置だ。

 ニューヨーク市は昨年春、世界最大の新型コロナ感染爆発地となった。救急車のサイレンが昼夜鳴り響き、病院の外には、遺体の保冷車が並んだ。市民は感染の恐怖と闘った。このため、ワクチンの接種率は高く、9月29日現在、成人の74.5%が接種を完了。未接種の成人は17.7%だ(ニューヨーク市衛生局による)。

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