「街の書店が街の書店である所以は、地域の人たちとつながっていることだと思います。それぞれのお客さんの好みを把握している店主や書店員が、この作家の新刊出ましたよ、と顔見知り客に薦められるような関係性です。かつては存在し、いつの間にか失われてしまった街の書店のコンシェルジュ機能を、地方の小さな書店こそ取り戻す必要があります」
今村さんが経営を危ぶまれた箕面市の「きのしたブックセンター」の経営を引き継いだのは21年11月。この1年間で伸ばした売り上げを、社員の休日確保とアルバイト店員の補充に回したという。書店の魅力アップには書店員の待遇改善が不可欠と考えるからだ。
■本に救われてきた
今村さんは昨年3月、学校に作家などの講師を派遣し、地域の子どもたちに本との出合いの場をつくる一般社団法人「ホンミライ」を立ち上げた。今年3月に公益法人化し、本格始動する。作家に限らず、作詞家やアナウンサーなど言葉にかかわる活動をしている人たちに講師の登録を呼び掛けている。学校での講演後、講師役の作家と子どもたちが一緒に地元の書店に行き、本の選び方などを学べる活動も盛り込みたいと考えている。今村さんは言う。
「まずは10年間続けようと思っています」
リアル書店の存亡をかけた「背水の陣」に挑む作家のエネルギーを支えるのは、人生の岐路で「街の本屋さん」で出合った本に救われてきた恩義のある世代としての責任感だ。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2023年1月30日号