ここ10年で全国の書店の約3割が減少していることなどに伴い、公共サービスの一環として書店の設置・運営に乗り出す自治体も出てきた。今後の書店のあり方について作家の今村翔吾さんが説いた。AERA 2023年1月30日号の記事を紹介する。
【写真】今村さんが118泊119日の行程で全国の書店などを巡ったワゴン車はこちら
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「書店には公共性があります。図書館が公営なのと同様に、リアル書店もそろそろ公営で維持していく時代に来ていると思います」
こう訴えるのは作家の今村翔吾さんだ。
「本ほど知的欲求を刺激するものはありません。大げさに言えば、知のインフラみたいな面もあると感じています。できれば小中高生ぐらいから読書の楽しさに触れてもらえれば、その後の人生を能動的に変えていく力が身につくと思います」
今村さんは作家活動の傍ら大阪府箕面市の書店を経営している。書店経営を引き継いだのは、地域から書店が消えるのを危惧したためだ。昨年5~9月には計119日かけて全国の書店約200店舗を含め、図書館や公民館など計271カ所をワゴン車で巡った。
直木賞を受賞した際、デビュー以来支えてくれた全国の書店員に恩返ししたい、と考えたのがきっかけだ。そんな今村さんが全国の書店を行脚して目の当たりにしたのは、車で片道1~2時間かけないとたどり着けない地方の書店事情だった。
「地方では特に、翌日には自宅まで本を届けてくれるネット書店の便利さには勝てません」
■カギとなるのは「人」
今村さんはリアル書店の存在意義を、本との「偶然の出合い」に依拠する傾向には警鐘を鳴らす。
「私も書店経営者の一人として反省もあって言うのですが、リアル書店はこの約20年間、『偶然の出合い』以外にネット書店に勝る利点を見いだせていません。しかしあと10年もすれば、メタバース空間に本との偶然の出合いを演出した書棚のある書店も登場するでしょう」
リアル書店のセールスポイントをどこに見いだすべきなのか。今村さんはカギとなるのは「人」だと言う。