晴れた日の明け方の美しさが身に染みるのは、雨が多いからこそなのだよきっと(photo:本人提供)
晴れた日の明け方の美しさが身に染みるのは、雨が多いからこそなのだよきっと(photo:本人提供)

 私の周辺でも、会社から事実上接種を強制されているという声をよく聞く。もし非接種を理由に仕事を奪われるともなれば死活問題で、誰かの命を守るためといって誰かの暮らし(命)を奪うことをどのように正当化できるのかといぶかしく思う。

 で、こうした行動の背景にマスコミの言動があるのではないかと私は疑っている。

 ワクチンを打たない人は「デマを信じている人」「ありもしない心配をしている人」「陰謀論者」と決めつける報道はあまりに一方的である。本誌でも「他人に感染させる可能性があることには無関心」という文言に接し、ひやりとした。

 最近つくづく思うのだが、我らがコロナで失った最大のものは、行動制限より何より他者への信頼ではないのか。何が正解かわからぬ世界に怯(おび)え、ゆえにわかりやすい正解に飛びつき、そこから外れる人を許さない。そうなってしまう気持ちはわかる。というか私も多分そうなっている。

 でも、その先に待つのは心の牢獄だ。この先、行動は自由になっても心が不自由なままであったなら、それは本当の自由と言えるのか?

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2021年10月18日号

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