お茶の間観戦では、リンクの壁に巡らされた広告看板が意外にも役に立つ。カメラが選手を中心に追っていると、各組のスピードの差は判りづらい。だが、背景である看板の流れ方を注視することによって、速度や緩急が目視できるようになる。
2つあるステップシークエンスの片方では、「男女はツイヅル(多回転の片足ターン)以外では離れてはならない」というルールがある。終始しっかりホールドしながらステップを踏むカップルも居るが、どちらかの身体に他方の手を添えながらアクロバティックな回転を見せる組も。手が離れればジャンプにおける転倒と同じような扱いとなってしまうため、大きな見どころの一つとなる。
得点を大きく左右する要素は、リフトやツイズルのような大技ばかりではない。テレビ中継では、選手が技を行うごとに、コムネットのシステムと連動して点数が表示される。「今のステップはどれだけの点数を稼げたのか」が瞬時に判るため、数組ほど眺めていると、どの実施が良い評価を得られるのかが見えてくる。
そもそも、度重なるルール改正は、年々進化し続ける選手の技術や、多分にジャッジの主観に陥りかねない「美しさ」をいかに公正に評価するか、という競技運営側の試行錯誤の表れ。繰り返される規則変更に対応しながら舞う選手やコーチ、振付師の戦いぶりにも注目すると、観戦の楽しみも更に奥が深くなる。
ロシアのドーピング問題が解決しておらず、いまだ選手の手元にメダルが届いていないものの、北京五輪の日本代表チームは団体戦で見事に表彰台に上った。2026年の冬季五輪でもおおいに活躍が期待できるが、その時に鍵になるのはやはりカップル競技。少し複雑なアイスダンスの採点方法を今から知っておけば、イタリア五輪の冬をさらに熱く楽しめそうだ。
(菱守葵)
※週刊朝日オンライン限定記事