喰田さんが通った多摩美術大学には写真用の暗室が備わり、「勉強のためにもフィルムカメラを使いたい」という気持ちがあった。いまでもプリントは基本的にこの暗室で行っている。
ただ、同期の多くは「広告代理店のクリエイティブ部とかを目指している人で、私みたいに写真家になりたい、という人はだいぶ少数派だった」と言う。
「そもそも、私はどうして美術が好きなのかな、と考えたら、目にした光景に対して、『うわー』って、心が躍った瞬間を頭の中に焼きつける行為が好きだったんです。これは写真なんじゃないか、写真にすれば、ほかの人にも見てもらえるな、と思った」
なるほど、そうかも知れない。しかし、頭の中に焼きついた光景を写真に写すのは、そう簡単なことではない。
そんな疑問をぶつけると、「そこがすごくジレンマだったんです」と言う。
「だからこそ、自分と制作を一体化するためにシンプルなカメラを選んだ。それを毎日、毎日、ずっと持ち歩いて、私が見て感動したものを、とにかく素直に撮る。その写真をほかの人に見てもらえるようなかたちにするために」
■中途半端に暗い写真は浅はか
さらに喰田さんは「この写真を見てもらって、『ああ、ハッピーだね!』で、終わらせたくない」と言う。
「能天気に『いいね!』みたいに言われると、違うんだけど、と思っちゃうんですよ。ほんとうに辛くて、撮ることでそれを消化している人もたくさんいると思う。でも、毒を出すために中途半端に暗い写真にしちゃうのって、浅はかだよなって、すごく思うんです」
そして、こう言った。
「写真はうそをつけないと思う」
澱(よど)んだ心ではハッピーな写真は撮れないと。
「いちばん大切なのは、自分自身のコンディション。健康を保つことはもちろん、ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、人間らしい生活をすること。それはすごく大事だと思う」
そのうえで、「ハッピーです」「幸せです」と、堂々と言えることの大切さを訴える。
「それは、みんなのなかにあるもので、すごく特別なものじゃないから」
(アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】喰田佳南子写真展「New Breath」
キヤノンギャラリー銀座 11月2日~11月13日、キヤノンギャラリー大阪 2022年3月1日~3月12日