撮影:喰田佳南子
撮影:喰田佳南子

■「ハッピー」な瞬間を「撃つ」

「子どものころみたいに、むき出しの心で感じることをずっとやっていたい」と語る喰田さん。

 撮影は、「まず、『生け捕り』にすることが最優先」だそう。

「正直、あまり深く考えずに、『あっ、きれい』とか、心臓がドンって、なったタイミングを逃さないように写す、というか、撃つ感じ。ほんとに撃つ感じです(笑)」

「ハッピー」な瞬間を「撃つ感じ」というのは、なんだかミスマッチな感じもするが、そんなふうに撮影するには、自分とカメラが一体化する感覚がほしかったという。

「それで、いろいろなカメラを使ってみたんです。相性がすごくよかったのが、『ハーフ』のオリンパスPEN F。今回の作品は全部、このカメラで撮りました」

「えっ、PEN F? それは、どうしてですか?」。思わず、聞き返した。

 というのも、このPEN F、1963年に発売されたかなり古いフィルムカメラなのだ。「万人が気楽にすべてのものを記録し、写真を楽しめるカメラ」として企画されたPENシリーズの一眼レフで、「ハーフ判」という小さな画面サイズを採用している。

撮影:喰田佳南子
撮影:喰田佳南子

 喰田さんはPEN Fを選んだ理由を、こう説明する。

「撮ること自体を自分にちかい状態にしたかったんです。究極、まばたきするのと同じくらいな感じで撮りたかった。このカメラは小さいので、『ほんの小さな優しいこと』というテーマと、いっしょに行ける気がした。シャッターボタンを押すと、ガチャーンって、カメラが全身で一生懸命にシャッターを切っている感じがした。それが、パッとまばたきするような感覚とすごくリンクした」

■日々の訓練で「人間露出計」に

 PEN Fは、いまの家電品のようなカメラとはまったく違い、電池なしで動く「機械式カメラ」だ。そのため、ピントも露出などはすべて自分の手で操作しなければならない。

「PEN Fについては、自分が露出計というか、『人間露出計』になれている気がします。例えば、電車に乗っているとき、手にした露出計を見て、(ここはこのくらいの明るさなんだ)と、頭の中の感覚と合わせていった。フィルムはいろいろ使うんですが、それに合わせて、(絞りとシャッタースピードは、いま、このくらい)と、露出計なしでもだいたい適性な露出がくるようになりました」

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中途半端に暗い写真は浅はか