写真家・喰田(しょくだ)佳南子さんの作品展「New Breath」が11月2日から東京のキヤノンギャラリー銀座で開催される(大阪は2022年3月1日~3月12日)。喰田さんに聞いた。
* * *
会場に展示するのは「ハッピーな写真」。喰田さんは、そう、堂々と口にする。
「じゃあ、そのハッピーって何? って、聞かれたら、それを見つけた瞬間、『ああ、出合っちゃった』みたいな、ドキドキした気持ち。もう体じゅう、血がグルグルとめぐる感じ。でもそれは、すごく特別なものではないと思う。ちょっと足を止めて見たら、絶対にこれって、誰かの日常のなかにあるよね、という光景。でも、そこにふっと気がついて、心が『うわっ』となる瞬間。それを追体験みたいに、展示を見に来ていただいた方に少しでも感じてもらえたら、すごくうれしい」
■性格と制作を結びつけた
7年前、喰田さんが写真を本格的に撮り始めたころからテーマにしているのは「ほんの小さな優しいこと」。
「普段、何げなく目の前を通りすぎてしまうものに大事なことがあるんじゃないかな」
写真展案内に写っているのは開きかけたネギの花、いわゆる「ネギ坊主」だ。
鶏冠(とさか)のついた卵のような形のつぼみが割れ、中からたくさんの小さなつぼみが顔を出している。形といい、色といい、美しさにあふれている。喰田さんはそこに「とても生命力を感じた」と言う。
周囲の葉に埋もれるようにひっそりと咲くチューリップ、透明な羽根のミンミンゼミ、窓辺に置かれた緑色のリンゴ。祖母や祖父、親友を写した作品もある。
そんな写真を撮るようになった理由について、「ルーツはたぶん2つある」と、喰田さんは自分自身を分析する。
1つ目は生まれ育った環境で、喰田さんの実家は千葉県木更津市の市街地から離れたところにある。「家は緑に囲まれている、というか、田んぼしかなくて。見るものは必然的に小さな虫とか、花だった」。
2つ目は「自分のコンプレックス」。
「性格的に、わりと臆病なところがあったんです。大勢の人の前に立って、わーっと、できるタイプじゃなくて。どちらかというと、みんなの輪からひとつ出たところで、みんなが楽しそうにしているのを見ているのが楽しいタイプだった」
「そんな性格と制作を結びつけて、自分の体内に落とし込みたかったんです」と説明する。