佐藤健寿『世界』(朝日新聞出版)※Amazonで本の詳細を見る
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 あとは普通の商業出版ではまず見ない三方金処理も行っています。これはもとは聖書などに使われた、本をカビなどの腐敗から防ぐための技術でした。今回の本は割と本気で数十年、できれば100年後に誰かが見て、「この時代はこんなだったんだ」と思ってもらいたいと考えて造ったので、そういう経年的な耐久性みたいなものも意識して造っています。

 これは裏テーマ的な部分ですが、多分いまの我々の世代って本が紙であることが前提となっている最後の世代だと思います。実際に三方金などもできる職人はほぼいなくなっていて、だから今後、こういう贅沢な本はどんどん造れなくなるだろうことも鑑みて、とにかく印刷と造本には今できる技術を詰め込んでこだわりました。

 100年後、我々が普段撮り溜めているクラウドの写真はほとんどが消失してるでしょうけど、本は物理的に残る可能性がある、というのはロマンではなくて現実的な予想だと思います。クラウドにあるデータは社会的に価値がなければいつか消去されますが、本は燃やされでもしない限り、価値があろうとなかろうと、どこかにしぶとく残りますから(笑)。

 あとはちょうど今年8月から写真集の発売に先行してライカ東京、ライカ京都、ライカGINZA SIXの三箇所で来年まで写真展を開催させていただいてるんですが、会場では特装版の予約販売も行っています。特装版の方は通常版からさらに突き抜けた全面ゴールド仕様となってます。通常版にしても特装版にしても、多分こんな本が商業出版されることは今後まずないんじゃないかと思いますね。

■「いつか行く」旅ではなく「いつか死ぬ」前に

―─コロナ前と後で「旅」はどのように変わっていくと思いますか?

 突き詰めれば死生観の変化ということだと思いますが「人はいつ死ぬかわからない」という当然の事が改めて社会全体的に徹底周知されたのが今回のパンデミックの一番のインパクトだと思います。

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