相続が発生したとき、残された家族がやらなければいけない手続きや届け出は予想以上に多い。もしもに備えて、元気なうちに自分ができる相続の準備には、どんなことがあるか。あらためておさらいしておこう。
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「親の死後、失意の中で財産探しに明け暮れるのは、想像以上に過酷な作業でした」
神奈川県在住のAさん(51)は、一昨年に他界した母(享年74)の死後、相続の手続きに追われる日々を過ごした。脳梗塞を発症してから1カ月あまりで亡くなったAさんの母は、それまで元気だったこともあり、相続準備の一切に着手しないまま旅立ってしまった。父は先立っており、法定相続人は、Aさんと弟の2人。相続税の申告は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内」と法律で定められており、期限内に申告しないと脱税で立件される可能性がある。
Aさんも弟も、一家の大黒柱としてフルタイムで管理職をこなす働き盛り。ただでさえ多忙を極める日々の中で突如、相続手続きが始まった。
幸いにもAさん、弟ともに収入面は安定しており、遺産分割は「折半に」とスムーズに話がまとまった。大変だったのが、金融資産がどこにどれだけあるのかという財産探しだ。物が多く、片付け下手だった母が住んでいた実家をどれだけ探しても通帳の類いが出てこず、家中に散らばった郵便物の中から、一つずつ手がかりを探った。やっとの思いで見つけたのが、銀行の口座が六つ、証券会社の口座が四つ。そこで銀行に「母の口座があるはずだから確認してほしい」と頼んだところ、「お母さんが生まれてから亡くなるまでの全ての居住地で、戸籍謄本を取り寄せてください」と言われた。
母は転勤が多かった父について、あちこちを転々としてきた生活だったこともあり、各自治体への問い合わせにも手間がかかった。仕事の合間を縫って戸籍謄本をそろえ、平日の日中に各銀行の窓口に出向き、長時間待たされてやっと残高の確認までこぎつけたら、わずか100円だったということも。しばらくしてから、屋根裏にあるタンスの引き出しから貸金庫の契約があることもわかり、全体の財産の把握には8カ月もの歳月を要した。実家と駐車場の評価額の算定や書類作成を税理士に依頼し、何とか無事に相続税の申告期限に間に合ったが、Aさんは「もうあんな思いは二度としたくない」とため息をつく。