受験が終わってから、中高6年一貫教育で得られるものを端的にいえば「ゆとり」だ。
高校受験がないので、中学生のうちに目先の1点、2点にとらわれない学習がたっぷりできる。理科実験や英語の多読や英会話などに時間をかけることができる。このような体験的な学習が結果的に、大学受験勉強の土台になる。中高一貫校の大学進学実績が高いのは、決して先取り教育によるアドバンテージだけではないのだ。
そもそも反抗期のピークに当たる時期に、高校受験のような教育的ビッグイベントを設けている国は世界的に見ても極めて珍しい。
反抗期が強く出れば高校受験でのパフォーマンスは下がる。高校受験勉強に最適化し、内申点まで気にしていれば、反抗期は漂白される。それでは精神的自立や批判的精神の涵養が危うくなる。高校受験と反抗期の両立は至難の業なのだ。
子どもから大人へと成長する多感な時期には、誰もがさまざまな葛藤を経験する。葛藤を乗り越える経験を通して、人間的成長を成し遂げる。言葉で教えられるものではない。流行りの言葉でいうならば、まさに「非認知能力」だ。
特に私学だと、この時期の少年少女に葛藤を経験させる方法とその乗り越えさせ方に、それぞれの「スタイル」がある。学校ごとの「非認知能力のブレンド」といってもいい。それを身につけられることが私学の魅力だ。そのために外車が一台買えるほどのお金を投じるかどうかの選択ともいえる。
■初めての本気の大冒険
約3年間の中学受験勉強の日々で得られるものをひと言でいえば「大冒険」だ。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」のようなもの。21世紀の日本のコンクリートジャングルを舞台に、中学受験生とその家族は、映画の登場人物さながらの恐怖や不安をガチで味わう。「二月の勝者」には「中学受験は課金ゲーム」という名ゼリフがあるが、実際の冒険は課金ゲームなんて生やさしいものではない。バーチャルな世界とは比較にならない本当の恐怖や不安を味わう。