「変更がいつ行われるか、またどの程度延長されるか現段階で明確ではありませんが、持ち戻し期間が延長されれば税負担は上がります。もともと、暦年贈与をする人は相続税の対象となるような資産が多い人に限られますが、早め早めの対策を呼びかけています」
持ち戻し期間が延長された場合への備えとしては、相続の対象となっていない人への贈与が一つの手だという。
福留さんは続ける。
「持ち戻しは、相続税の課税対象者が対象となります。このため配偶者や子どもなどに直接、贈与するのではなく、孫や子どもの配偶者ら、課税対象でない人へ贈与すれば負担は和らげられ、相続資産も減らせます」
ただし、相続税の課税対象とならない人へ贈与することに抵抗を感じる人もいるという。配偶者や子どもら相続税の課税対象者に比べて、日頃の関係性が薄いケースが少なくないからだ。配偶者や子ども、さらに贈与を考えている人の理解を得るうえでも、早めの備えが必要だろう。
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Q 相続時精算課税はどう変わる?
A 前述したように、専門家会合では使い勝手を高めるための議論がなされている。
暦年贈与と相続時精算課税の利用状況をみると、20年の課税件数が暦年課税が36.4万件なのに対し、精算課税は4万件にとどまる。
精算課税制度を適用したい場合、贈与を受ければ非課税枠2500万円の範囲内で税を納める必要がない人も、税務署への申告がいる。こうした手続きを簡素化する意見が出ている。
また制度を利用できるのは60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上(今年4月1日より前の対象者は20歳以上)の子や孫への贈与に限られたり、精算課税を選択すると暦年贈与を選べなくなったりする点も課題として指摘されている。
「暦年贈与と併用できるようになれば利用が増えるかもしれません。ただ、そのためには贈与された資産をきめ細かく把握し、どの資産をどちらの制度に適用するかの線引きをする必要が生じます。簡単ではありません」(前出の山本さん)