「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。
■妊娠8カ月で生まれた
もうすぐクリスマスですね。1年で一番華やかなシーズンです。私はこの時期にイルミネーションを見ると、息子が生まれた14年前のことを思い出します。
息子はクリスマス直前に妊娠8カ月で生まれてきました。早産の後遺症で膝から下が不自由です。当時、入院していた病院のデイルームには大きなクリスマスツリーが飾られており、早産するかもしれない不安に襲われた時も、出産後にNICU(新生児集中治療室)にいる息子に会いに行く時も、綺麗なイルミネーションに癒やされました。
息子の妊娠がわかったのは、長女が難治性てんかんのコントロールのために入院していた時でした。長女の看病や、まだ歩けなかった双子の次女のことに追われ、妊娠に気付いたのは4カ月に入る直前でした。
長女が入院している病院で妊娠を知った私は、そのまま小児病棟へ行き、小児科医の友人あーちゃんに話をしました。あーちゃんは長女の担当医でした。
■産んだ方がよいとは言えないかも
「時間外に突然ごめんね。ちょっと話したいことがあって」
ただならぬ顔をしていたのだと思います。あーちゃんはそのまま長女の病室に入ってカーテンを閉めると、隣のベッドから椅子を持って来てくれました。
「…妊娠してた」
私は、この時点では妊娠を継続する自信がありませんでした。産科では、再び早産する可能性が高いと言われたこと、早産になれば、またPVL(脳室周囲白質軟化症)の子どもが生まれるかもしれないこと、ドクターに今の我が家の状況では絶対に産めとは言えないと言われたこと、産まないのなら転院して手術を受けなくてはならず、しばらく長女を連れて帰るのが難しいかもしれないこと……。
あーちゃんは驚きながらも理解を示してくれました。
「私は小児科医だから、小児科としては赤ちゃんの誕生は喜ばしいこと。でも私も、この状況で産んだ方がいいとは言えないかもしれない。ゆうちゃんは大丈夫。ここでしっかり預かるよ」