炎柱・煉獄杏寿郎(画像は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」公式パンフレットより)
炎柱・煉獄杏寿郎(画像は「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」公式パンフレットより)

【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

鬼滅の刃』は、か弱い人間が生身のまま「鬼」という強大な敵と戦うことから、戦闘による死者・負傷者の数が極めて多い。そして、鬼の討伐にあたる剣士たちの年齢が比較的低いことから、「若者の生命を軽んじているのでないか」という批判にさらされたことがあった。しかし、アニメ2期「遊郭編」が内包するテーマは「生きる」ということではないか。遊郭編4話では、キャラクターのセリフから、「生」のメッセージを感じ取ることができる。ここでは『鬼滅の刃』における「生」と「死」のありようについて考えてみる。<本連載が一冊にまとめられた「鬼滅夜話」が発売されました>

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■「鬼殺隊の一員である」ということ

『鬼滅の刃』には多くの剣士が登場するが、その中でも突出した強さを誇るのは、鬼殺隊を支える9人の「柱」たちだ。

 しかし、「遊郭編」の前シリーズ「無限列車編」では初の柱の死者を出してしまう。炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)は、鬼の襲撃から200人もの乗客を守りきり、命を落とした。戦闘の最中、煉獄が発した“あの言葉”は多くの人の心に刺さっただろう。

<老いることも 死ぬことも 人間という儚い生き物の美しさだ 老いるからこそ 死ぬからこそ 堪らなく愛おしく 尊いのだ>(煉獄杏寿郎/8巻・第63話「猗窩座」)

「ここにいる者は誰も死なせない!!」、その言葉を貫き通した煉獄は、守るべき人たちの代わりに命を落とした。「煉獄さん 煉獄さん!!」と泣き叫ぶ炭治郎の言葉に、何人の人が心を寄せ、その死を悼んだだろうか。

「無限列車編」では、人間の生命が永遠ではないこと、終わりがある人生をどのように生きるのか、というテーマが示されていた。

■若者の命が失われる『鬼滅の刃』

 黎明に散る―煉獄杏寿郎の生きざまは美しかった。他者の命を守るため、その身をささげることに、読者や視聴者は感動を覚えた。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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