「iDeCoは年間約2千円の費用がかかりますが、マッチング拠出は会社が費用を負担してくれます。費用負担を除いてもiDeCoのほうが金額が高いのなら、iDeCoを選ぶ手もありますね」(井戸さん)
一方、先の加藤さんは、50代以上ならマッチング拠出ができれば、素直にそれを選んでもいいのではとする。
「事業主掛け金が極端に低い場合は別ですが、勤続年数や役職に応じて事業主掛け金を決めている会社が多く、50代だとそこそこ事業主掛け金は高いはずです。手数料がかからず管理も楽なので、マッチング拠出で構わないのではとアドバイスしています」
これもまた、「積み上がるお金」を重視するのか、「手間いらず費用いらず」を取るのかの選択になる。
このほか、会社が用意する商品ラインアップが投資信託の手数料である信託報酬が高いなどで不満がある場合も、iDeCoが選択肢として浮上してくる。
もう一つ、気をつけなければならないのは企業型DCとDBが両方ある会社の社員だ。この場合は2年後にもう一度、制度改正が予定されているからだ。
これまでDBの掛け金(正確には「掛金相当額」)は関係なかったが、24年12月からは企業型DCとDBとiDeCoの三つの掛け金合計額が「5万5千円」を超えられなくなる。あわてて今、iDeCoに加入してしまうと、DBの掛け金によっては2年後にiDeCoを減額したり、最悪の場合、入れなくなってしまう可能性があるのだ。
そうならないために、厚生労働省はこの10月までに会社側に従業員にDBの掛け金を通知するように指導している。対象者で記憶にない人は見落としている可能性があるので、会社側に聞こう。
もっとも、年金数理人の中村博さんによると、仮に2年後に減額や加入できないことが判明しても、それまで積み立てたiDeCoの掛け金は無駄にはならないとのことだ。
「厚労省もそうなる可能性を見越して、その掛け金をDBに移せるよう規約改正を企業に勧めていますし、対象者が脱退一時金を利用できるように制度改正が予定されています。なお、対象者で定年間近な人は、60歳で退職金をもらって企業年金の制度から外れると、それ以降iDeCoを再開できるかもしれません。再開を見据えて数年程度なら放っておく選択もあるので、会社に確認しておいたほうがいいでしょう」
以上、さまざまなケースで企業型DCとiDeCoの併用の可能性を見てきた。iDeCoを利用できるのなら利用したほうがいいし、併用できないのなら「つみたてNISA」などほかの制度で積み立てる手もある。
先の井戸さんは、こうアドバイスする。
「どんどん選択肢が増え、自分で判断しなければならない機会が増えていますから、自分の会社の企業年金についてしっかり勉強することが、これからは必須になります。iDeCoに限らず『非課税』をいかに利用するかがポイントの一つです」
(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2022年11月4日号