タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
【写真】女性が死亡した事件を受け東京で行われた抗議集会の様子
* * *
もしも今あなたが、イランに生きる市民だったら、あなたはデモに参加したでしょうか。それとも沈黙を守ったでしょうか。イランでは、最高指導者アリ・ハメネイ師が率いる現体制に抗議する激しいデモが全土に広がっています。きっかけは、先月22歳の女性マサ・アミニさんが髪を覆うスカーフを適切に被っていなかったことを理由に道徳警察に逮捕され、のちに死亡した事件。激しい暴行を受けたと思われる姿でベッドに横たわる映像が流出しました。1979年のイスラム革命以降、自由を制限され著しい人権侵害を受けている女性たちは抗議を続けてきました。しかし、今回は女性だけでなく多くの男性もデモに参加しています。イランの教育相はデモに参加した生徒や学生らを拘束して施設に収容し、矯正・再教育を行っていると語ったと報じられました。抗議に参加して当局に殺害された疑いのある女性が複数いると見られています。デモへの支持を表明した男性著名俳優やアスリートも政府による弾圧を受けました。政府はインターネットへの接続を遮断して、情報が国内外に広がるのを阻もうとしているとも。命の危険があっても街に出る人々が絶えない背景には、政府に対する鬱積(うっせき)した不満があります。女性の自由を奪い自立を阻む政策は、女性だけが犠牲になるのではありません。それはその国の体制が人間の尊厳や命をどのように扱っているかの端的な表れだからです。
ちなみに2022年のジェンダーギャップ指数ランキングでイランは146カ国中143位。1に近いほど平等達成度が高くなる指数の値は0.576です。日本は116位、0.65。その差は0.074。トップのアイスランドの数値は0.908です。数字で全ては語れませんが、日本の現在地がどこなのかを思うと、遠い国のニュースの見え方が違ってくるかもしれません。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2022年10月24日号