「強度行動障害の支援現場では、専門知識を持った人材が不足しています。職員は研修を受ける余裕がなかったり、精神的にも高いストレスを抱えたりしている現場が多いのです。さらに、子どもが感情的になった時にはクールダウンする部屋やスペースも必要ですが、資金面で難しいということもあり、行動面での問題を持つ子どもの受け入れ環境は十分と言えません。預かりや利用を拒否されるケースもあります」
問題行動が生じてからの身体的な抑制行為に対しては、押さえつけや抑制など侵襲性の高い方法は、本人や他者への危険が切迫した状況の中で他の方法がない場合にやむを得ず一時的に許される場合はある。しかし、と井上教授は言う。
「『治療』として行うことは倫理的な問題だけでなく、対象者にとって身体的・精神的に取り返しのつかない大きなダメージを残すリスクがあります」
■子どもに合わせた対応と早期支援がカギになる
こうした課題をクリアする上で重要とされるのが「早期支援」だ。05年に施行された発達障害者支援法では、早期の発達支援が重要と条文にうたわれた。
発達障害のある子どもと親への支援を行う特定非営利活動法人「ADDS」共同代表の熊仁美さんは、早期支援の重要性についてこう語る。
「早期支援をしたからといって、必ずしも就学後に行動の問題が起こらないということはありません。しかし、例えば、欲しいものがあれば『ちょうだい』、嫌なことがあったら『いや』と自分の意思を表示する手段を教え、それがしっかり周囲の人に伝わったという経験を早いうちから積み重ねることはとても重要です。また、早期からさまざまな遊びを通じて、子どもが落ち着いて楽しく過ごすための活動や手段を見つけ、その幅を広げていくことも早期支援の重要な目的です」
逆に、支援が遅くなればなるほど、子どもも親も苦しむことになる。ASDは早期支援が、後の発達や予後によい影響を及ぼすことがさまざまな研究で報告されている。