今年7月、福岡で発達障害のある中学生を殴るなどして、施設の理事長らが逮捕された。背景には、養育ストレスを抱えた親への支援の脆弱さがある。誰もが生きやすい社会にするにはどうすればいいのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。
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発達障害の子を持つ親は追い込まれていると話すのは、千葉県松戸市にある社会福祉法人「まつど育成会」統括施設長の早坂裕実子さんだ。
「発達障害の子どもを持つ親御さんは、わらをもすがる思いで来られます」
同施設は、子どもから大人までの障害者支援を行う。中でも、幼少期から思春期にかけての発達障害の子どもを持つ親からの相談は深刻だという。
子どもが家の中で全裸のままトイレをどこにでもしたり、家の壁を壊したり。途方に暮れ、子の首を絞めて一緒に死のうと考えるという親もいる。
そこまで親を追い詰めるものは何か。
「親御さんはいろいろな施設に相談に行かれます。しかし、その子に合った『見立て』の中で適切に支援をしてくれるところが少ないと思います」(早坂さん)
例えば、「自閉スペクトラム症」(ASD)と言っても、一人一人様相が異なる。対応が難しい子ほど適切な療育や支援をしてくれる施設は多くない。そうした中で子どもが行動の問題を起こすと「うちの施設では対応が難しい」と言われ、親はまた別の施設を探すことになる。こうして行き場をなくした親は追い込まれていく。早坂さんは自戒の念を込め、「現場の力が足りない」と話す。
「職員は学校で福祉を学んでいても、相対的な学習であって、すぐに一人一人の子どもに合ったアプローチはできません。子どもの困りごとと向き合い、子にも親にも適切な支援を届けられるような、職員の専門性を高めることが重要になっていくと思います」
福岡の事件では、逮捕理由に関連し、理事長による強度行動障害のある人への虐待とも取れる行為の問題も指摘されている。鳥取大学大学院の井上雅彦教授(応用行動分析学)はこう話す。