福岡で起きた事件は、決して許されるものではない。しかし、特異な事件と片づけるのではなく、事件の背景にある子どもや保護者の苦しみ、そして支援者の現状に目を向け、よりよい仕組みづくりへと活かしていくことが必要だという。

 逮捕された理事長らが、苦悩する保護者を前に、自分たちにしか解決できないという誤った使命感を抱え、孤立し、行き過ぎた行為になっていった側面もあるのではないか。そしてそこに救いを求めるしかなかった保護者がいることにも目を向けなければならない。

「地域で困っている親御さんには、行政が密に連携を取り、ライフステージで切れ目がないよう関わっていくことが必要です。対応が難しいケースほど、当事者だけでなく支援者をしっかり支え、抱え込んだり孤立したりしないようにする。地域みんなでつながり、長期的にお子さんや親御さんを支える仕組みが求められると思います」

 井上教授は、まず「家族への支援を進める必要がある」と話す。

「行動面で問題のある子どもを持つ親は追いつめられ、誰かに相談したくても『しつけが悪い』などと言われると思い、相談機関に行けない人が多くいます。そのハードルを下げ、家族を孤立させない仕組みづくりが求められます」

 そのために重要というのが、「ペアレントトレーニング」と「ペアレントメンター」の二つ。前者は、子どもの困った行動に対する適切なかかわり方を親が学び子どもの望ましい行動を促すもので1960年代に米国で開発された。後者は、発達障害の子どもを育てた経験のある人が「先輩の親」として、就学後の不安や学校での心配事などを抱えた「後輩の親」の相談者になるという当事者同士の支えあいの仕組みだ。2005年に日本自閉症協会が養成を始め、いま全国で1800人近いペアレントメンターが養成されている。これらの普及に向けては、実施に必要な人材の育成などが課題とされている。

 井上教授はこう話した。

「地域での発達障害支援は法律や仕組みは示されていますが、自治体による差も大きく、まだ道半ばと言えます。強度行動障害などによって地域での支援から切り離され、孤立してしまいがちな子どもやご家族は少なくありません。子どもから成人までの切れ目のない支援と機関の連携、家族も含めた支援を整えていくことで、みんなが生きやすい社会になっていきます」

※当初の配信記事に「例えば、落ち着きがない『注意欠陥・多動性障害』(ASD)と言っても」とあったのは、「例えば、『自閉スペクトラム症』(ASD)と言っても」の間違いでした。おわびして訂正いたします。

(編集部・野村昌二)

AERA 2022年10月3日号より抜粋

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