実際、国立競技場周辺の木は多くがか細く、葉が黄色に変色していた。枯死したとみられる細い切り株もあった。
近くに住む70代女性は残念がる。
「外苑をよく散歩しますし、孫とも来ますよ。まさか木が切られるなんて。外苑の中の景色は変わらないと思っていたのに」
神宮外苑を守る有志ネットの事務局、西川直子さん(建築ジャーナル編集長)は指摘する。
「外苑はむしろ世界遺産にすべき。球場も重要文化財級です。それなのに、文化的・歴史的背景を無視した、海上の埋め立て地で行うような派手な再開発をしています」
■経済効果はけた違い
再開発そのものにも疑問符が付く。計画当初、スポーツ関係の施設を集める「スポーツクラスター構想」と説明されていた。イチョウ並木の隣、北青山一丁目住宅自治会長の近藤良夫さんは言う。
「周辺の自治会長たちを集めて、都は18年に再開発の指針の説明会を初めて開きました。古くなった球場とラグビー場を入れ替えて間を広場にする概略を聞いただけなので、参加者は『いいんじゃないか』と言っていました。指針には超高層ビル計画も樹木伐採も盛り込まれていなかった。その後の事業者による説明会で、具体的な内容を聞かされて『どこがスポーツの聖地ですか』と紛糾しました」
青山外苑前商店街の会員も、超高層ビル化に困惑する。
「いまでさえビル風で困っています。風の強い日は子どもの通学路を変えているほどなのに」
今回の再開発の権利者は、三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)に加えて、外苑前に本社ビルを持つ伊藤忠商事の4者だ。当初は反対していたが、「祭りのとき、伊藤忠さんには協力してもらっているから」などと遠慮する住民もいたという。
なぜこうした計画が進められているのか。LIFULL HOME’S 総研副所長の中山登志朗さんは外苑の再開発の経済効果について、「けた違い」と指摘する。
「田町・高輪の10ヘクタールでの再開発の経済効果は1.4兆円と言われています。それに比べて外苑の面積は6倍で、近隣の駅も外苑前や青山一丁目など5駅と多く、都心のど真ん中。9兆円以上の効果を生むと考えられます。六本木ヒルズの再開発も比にならない」
そもそも、外苑の再開発にはかなりの制限があるはずだった。歴史をひもとけば、明治天皇をしのぶために造られた。全国から献木が寄せられ、市民が寄付したという記録も残る。現在は大部分が明治神宮の私有地だが、都市計画法上の公園でもある。都からは風致地区に指定され、建物の高さにも制限があった。