神宮外苑で進む再開発により、イチョウ並木が伐採・枯死の危機に直面している。強行された再開発の背景には、9兆円もの経済効果を優先した動きがあった。AERA 2022年10月3日号から。
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東京の紅葉スポット、明治神宮外苑のイチョウ並木。樹齢100年以上のイチョウが4列、左右対称に続く。いま、この並木が存亡の危機にある。原因は明治神宮外苑の再開発だ。
外苑では五輪前から再開発が進んでいた。竣工からそれぞれ96年、75年が経つ神宮球場とラグビー場は建て替えられる。球場上に14階建てのホテルができる。新たな超高層ビルも3棟できる計画で、一帯の再開発が終わるのは2036年頃の見通しだ。
球場とラグビー場は元の場所で営業を継続しながら新施設の建設を進め、最終的には両者の場所が入れ替わる。
この再開発により、外苑内の景観は大きく変わる。それによって、イチョウを含む外苑の樹木およそ千本が伐採・移植される可能性が、今年1月、研究者の指摘で明らかになった。
事業者は説明に追われ、伐採・移植の規模を縮小すると発表。ただ、「イチョウ並木は保存する」と改めて約束した。
■樹木の残存率は33%
確かに青山通りからまっすぐ植えられたイチョウには伐採・移植の計画はない。それでも、この並木は危機的状況にある。球場の外壁は並木のすぐそば8メートルまで迫るからだ。外壁の高さは約25メートルとイチョウと同じくらいで、地中に約40メートルの杭が打ち込まれることになっている。
外苑再開発による伐採問題を指摘した中央大学研究開発機構の石川幹子教授は言う。
「新宿御苑では地下トンネルの影響で、樹木の枯死(こし)が起きています。私の調査で、トンネルの壁から15メートル以内の樹木の残存率はたった33%でした」
外苑の球場外壁とイチョウ並木はもっと近い。この並木が、今後は失われていくという。
「これから10年、20年、50年と経つうちに、1本、2本と衰退して、並木ではなくなっていくでしょう」(石川教授)
事業者は「移植する」というイチョウもある。並木から現在のラグビー場に向かって植えられている18本のイチョウは移植可否が検討されるが、保存されるかは不透明だ。
さらに、移植後の状態という問題もある。国立競技場の樹木も、建て替えにあたって219本が移植された。
「このうち、元の美しさを保っているのはたった3本。樹木は移植のために強制剪定という大手術を受けています。移植先の土壌は従来とは全く異なりますし、一部は人工地盤なので、水循環も絶たれています」(同)