長きにわたり将棋界の王者として君臨し続けてきた羽生善治。主要な記録では歴代1位となって久しく、50代を迎えたいまもなお、前人未到の境地を歩み続ける。今年度は好調で、久々の優勝、無冠返上の期待もかかる(photo 写真映像部・松永卓也)/史上最年少14歳でデビューして、そのまま無敗で史上最多29連勝を達成した藤井聡太。現在はタイトル戦を10期連続で制覇という、これもまた信じられないような記録を更新している。日本シリーズでは初優勝を目指す(photo 朝日新聞社)
長きにわたり将棋界の王者として君臨し続けてきた羽生善治。主要な記録では歴代1位となって久しく、50代を迎えたいまもなお、前人未到の境地を歩み続ける。今年度は好調で、久々の優勝、無冠返上の期待もかかる(photo 写真映像部・松永卓也)/史上最年少14歳でデビューして、そのまま無敗で史上最多29連勝を達成した藤井聡太。現在はタイトル戦を10期連続で制覇という、これもまた信じられないような記録を更新している。日本シリーズでは初優勝を目指す(photo 朝日新聞社)
この記事の写真をすべて見る

 将棋日本シリーズJTプロ公式戦の2回戦で「史上最強」の2人がぶつかる。歴代1位のタイトル99期を獲得した羽生善治九段と、若き王者・藤井聡太五冠だ。両者の軌跡を振り返りながら、将棋界の今を紹介する。AERA2022年9月26日号の記事を紹介する。

【写真】藤井五冠と羽生九段、対局中の二人の表情の違いは

*  *  *

 史上最強VS.史上最強候補。

 羽生善治九段(51)と藤井聡太竜王(20)の対戦をシンプルに形容すれば、そういうことになるだろう。

 かたや歴代1位、タイトル99期を獲得したレジェンド。かたや番勝負で一度も敗退することなく史上最年少でタイトル10期に到達した若き王者。ファンが一番見たいゴールデンカードと言っても過言ではないだろう。

 9月23日。札幌市でおこなわれる将棋日本シリーズJTプロ公式戦2回戦において、羽生と藤井は久々に対局する。

■ともに早熟の大天才

 日本シリーズに参加できるのは将棋界のトップクラス12人のみ。現在の規定では前回優勝者、タイトル保持者のほか、賞金ランキング上位者だけが出場を許されている。棋戦名の通り全国を転戦し、公開でファンが見守る中、早指しのスリリングな対局がおこなわれる。羽生、藤井の対戦を生で見る機会に恵まれた人は幸運というよりない。

 本稿ではその歴史的対局に先立ち、両雄のこれまでの実績・記録を振り返りながら、現在の将棋界の状況を紹介したい。

 羽生と藤井には多くの共通点がある。中学生のうちに棋士になった早熟の大天才であること。盤上では華のある指し手でファンを魅了し、勝ってもおごらず謙虚で、飽くなき探究心を持つこと。人柄はほがらかで、将棋界を代表する人気者であること。実績の上では数々の偉大な記録を持ちながら、自らはほとんど無関心なことなどだ。

「記録がかかっている」

 などと書いてもそれは本人たちの実感ではなく、外野の視点であろう。しかしわかりやすいよう便宜上、そうした表現を用いて進めていく。

次のページ