【大阪】綿密な取材と豊富な知識で描く上方落語の涙と笑いの青春小説
『甘夏とオリオン』文庫版(増山実 KADOKAWA)792円
ブックスふかだ(守口市) 深田哲也店長
大阪の下町、玉出にある銭湯で居候をしながら、修業中の若手女性落語家、桂甘夏。師匠・桂夏之助が、突然一切の連絡を絶って失踪した。戸惑いながらも落語会を開きつつ師匠の帰りを待つ甘夏と2人の兄弟子たち。
自分や兄弟子たちの小さな偶然がつながって、今、自分たちが落語家としてこの場所に立っている。
「落語家は落語だけ知っとったらええんちゃうで!」。弟子入りして間もない頃の師匠の言葉を思い返している。
落語に詳しくない方でも、上方落語に触れて楽しく読んでもらえる作品です。
【兵庫】“神整備”“日本の至宝”と評される甲子園・阪神園芸の神髄を小説化
『あめつちのうた』文庫版(朝倉宏景 講談社)946円
井戸書店(神戸市) 森忠延社長
今年から始まった、「ひょうご本大賞」(神戸新聞社と兵庫県内の書店などが創設)を射止めたのが本書。
舞台は阪神甲子園球場のグラウンド整備をしている阪神園芸さん。
入社した主人公は運動神経も要領も悪く、四苦八苦します。他の登場人物も含めて、それぞれの悩みの解決の糸口は甲子園球場の土にあり。「表面だけではなく、深い層にまで水分を行き届かせなければ、柔軟で、同時に強くはならない」「土を耕し、掘り起こし、締め固めなければならない」ということは人の心も同じ。
自然からの教えは間違いありません。
【奈良】多彩な執筆陣と豊富な資料 地元特化型出版社ならではの良書
『奈良町の南玄関 歴史と文化の扉をひらく』(元興寺文化財研究所編 京阪奈情報教育出版)1320円
啓林堂書店郡山店(大和郡山市) 加川弘一さん
JR万葉まほろば線「京終(きょうばて)駅」を知っていますか?
この駅名にある京終は、古代飛鳥から平城京に続く上ツ道の交通の要として、戦国時代には松永久秀が筒井順慶を迎え撃った戦場として、戦後は奈良の台所として、高度成長期の復興の中心として文化的、歴史的に興味深いところです。奈良町の南の端に位置して平城京のハテに当たります。
この小さな都市空間にスポットを当てて、時代、都市、産業、社寺、信仰、伝統から迫ります。奈良町散策にちょっと足を延ばして“南玄関”まで来てみてはいかがでしょう?