企画したのは松本奈々さん(30)と矢野淳さん(26)。昨年立ち上げた合同会社MARBLiNGの共同代表を務める。福島市生まれの松本さんは東京の大学を卒業し、勤めた後に地域おこし協力隊として村へ移住。廃校や空き家の活用などを進め、3年の任期後も活動を続けてきた。矢野さんは父親が東京から移住した関係で、東京の大学在学中から村内の聞き取りなどの活動を続けてきた。

 松本さんが目指すのは「フラットな関係」だ。5年前の避難指示解除以来、さまざまなボランティアや研究者、学生らが村にやってきた。でも、「助けてあげなくちゃ」「支援する」という気持ちだと長続きしない。相手も負担に感じてしまう。

縛りも価値観も消えた

 矢野さんが思い知ったのは「リセットされた地域づくり」の必要性だ。学生だったころ、放射能が残る村に戻ってきた「ふつうの農家のお嫁さん」に話を聞いた。

「避難先から帰ったら、丸ごと全部なくなっていて、ほっとしている自分がいた」

 本音だなと思った。被災前の村には祭りや婦人会、近所づきあいなど、田舎社会で生きる女性としてつらい、しんどい思いも実はあった。戻った山や畑は放射能に汚染されていた。家畜も失った。同時に、さまざまな縛りも価値観も消えていた。そんな「リセット観」を漏らすのは、農家の嫁ばかりではなかった。

「変えられるかな」

 矢野さんは思った。

「図図倉庫」を応援する団体も現れた。県内でも原発事故の被害が大きく、住民帰還が遅れている浜通りの13市町村の青年ら約100人が連携して2021年に設立された「HAMADOORI13(はまどおりサーティーン)」だ。その若手起業家応援事業「フェニックスプロジェクト」の第1期補助事業(年間上限1千万円未満で3年間=東日本大震災復興支援財団が出資)に「図図倉庫」は採択された。

 事務局の佐藤亜紀さん(40)は、

「村の人を含めたさまざまな立場の人を『共同作業』で巻き込み、環境づくりにアプローチする秘密基地という設定に、わくわくしています」

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