
福島県飯舘村で新旧の住民が共同で地域づくりに取り組む試みが始まっている。そうしたなか、移住者に「復興とは別次元の動き」も見えてきたという。AERA 2022年9月12日号の記事を紹介する。
【写真】飯舘の農園で取れたての果実を使った「ブルーベリーソーダ」はこちら
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福島県飯舘(いいたて)村で8月最初の日曜日、コロナ禍のため3年ぶりとなった夏祭りが開かれた。テント屋台で働いていた地域おこし協力隊の松尾洋輝さん(26)は、ふだんはコーヒーづくりが専門だが、この日は「ブルーベリーソーダ」も販売していた。
紫色のブルーベリーがいくつも浮いていて、甘い香りが口の中に広がる。「いいたての味」になれば、と期待されている。
1杯650円と少し値段は張ったが、20杯も売れた。珍しく人波でごった返した会場の「道の駅」からほど近い「市澤農園」で取れたばかりの果実だ。
同園の市澤秀耕さん(68)は先祖から継いだ1ヘクタール足らずの農地に20年ほど前、ブルーベリーを植えた。村役場を辞めて始めた自家焙煎(ばいせん)のコーヒー店が軌道に乗り、果実・野菜栽培もあわせて「ちょいとかっこいい百姓ができそうな予感」がしていた頃に東日本大震災に襲われた。全村避難指示とともに6千人余りの村人が故郷を離れた。市澤さんは何とか福島市内でコーヒー店を再開した。一部を除いた避難解除は6年後。間もなくブルーベリー栽培も再開した。

若い人の動きに意味
地域おこし協力隊の松尾さんはそんな市澤さんの収穫を今年は手伝った。
「若い人たちの動き自体に意味がある。新しい人たちとの試みを村の未来に結びつけたい」
と市澤さんは言う。
コーヒーやブルーベリーソーダはふだん、道の駅から100メートルほど離れた旧ホームセンターの敷地にある黄色いキッチントレーラーで売っている。
今後は建物内に常設し、ほかにもイチゴや梅、シソジュースを村内の農家との共同作業で売り出す計画だ。同センターは秋の暫定オープンを控えた「図図(ずっと)倉庫」として改造中で、新旧住民が環境再生や未来の環境づくりの共同作業を試みる「ハブ空間(場)」になる予定だ。「図図」には「永遠の」「終わることのない」実験場との意味も込められている。