もうひとつは議員資格についてである。現在国政選挙の被選挙権には居住要件がない。だから海外在住の東谷氏も立候補できる。動画人気が得票に直結することがわかった以上、今後は似た事例が相次ぐだろう。国会では折しもオンライン審議の是非が議論され始めていた。リモート出席が認められれば立候補の障壁はますます低くなる。

 しかしそれでいいのか。オンライン審議は本来緊急事態対応や多様性支援の観点で導入が検討されていたものだ。東谷氏の例は新しい検討を迫る。有名インフルエンサーの一部はすでに国外に住み始めている。彼らは日本国籍で日本語で日本人に向けて訴えるが、生活の実態は日本にない。国政参加には危うさがある。

 これは実は在日外国人選挙権の話と表裏一体だ。日本に何十年と住んでいても国籍が理由で投票すらできない。海外在住でゲーム感覚で言論を弄しているだけでも国籍があれば議員になれる。このアンバランスをいかに解消するか。グローバル時代の国民国家とはなにかという大きな問題が、ガーシー現象の背後には横たわっている。

◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2022年8月29日号

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