
次に吉村さんが挙げる『おいしいロシア』は、食生活という身近なテーマを通し等身大のロシアを知ることができる作品だ。
「イチ主婦の目線で、普通のロシア人の暮らしを描いています。著者も最初は『おそロシア』というくらい、ロシアにおそろしいイメージを抱いていたのが、実は違うとわかってきます。私たちがロシアに対して抱いている認識と現実の落差を埋めてくれるという意味でも、オススメです」
吉村さんによれば、ステレオタイプのロシア像の形成に大きく影響したのは明治時代の風刺漫画だったという。
「国を一つの性格と見る、つまり『キャラ付け』がされました」

最後に挙げる『お國気質』は、そんな明治時代の風刺漫画だ。
大小八つの丸の中に、様々な国が動物に見立てられ表象されている。例えばロシアはオオカミ、日本はブルドッグ。
「ロシアは貪欲で飽くことを知らないからオオカミ。日本は、『東洋の番犬』という意味でブルドッグです。当時の日本人がロシアを含む国際社会に抱いていたイメージに加え、日本人の自意識も透けて見える非常に興味深い一作です」(吉村さん)
(編集部・野村昌二)
■吉村さんオススメマンガ
『風雲児たち』/みなもと太郎著/リイド社
昨年亡くなった漫画家が40年以上にわたり描き続けた。鎖国時代の日本に生きた風雲児たちを、ギャグマンガのタッチで生き生きと描いた。
『おいしいロシア』/シベリカ子著/イースト・プレス
ロシア人と結婚した日本人女性がロシアに住んだ際の、食生活や料理を中心としたエッセイマンガ。ロシアの日常生活を知る希少な作品。
『お國気質』/北沢楽天/有楽社
『東京パック』第5巻第35号1909(明治42)年12月10日号掲載。所蔵:京都国際マンガミュージアム/京都精華大学国際マンガ研究センター。
※AERA 2022年8月15-22日合併号より抜粋