「まるで認知症のような症状であっても、実は治療を受けずにずっと放置されてきた発達障害というケースが少なくありません」(河野医師)

 中でも区別がつきづらいというのが、認知症の一歩手前の状態であるMCI(軽度認知障害)と発達障害だ。主な認知症はだいたい65歳前後から症状が表れ始め、MCIは50歳前後から軽度の記憶障害などの症状が出始める。MCIか発達障害かの見極めは、幼いころからの日常行動の問診が診断材料となるが、発達障害は主に小児神経科が、認知症は老年精神科が診療に携わっていることから、両者の視点を持ち合わせた診療体制が構築されているところは非常に少ない。

 発達障害は認知症のように途中から始まるものではなく、幼少期から続いている症状だ。発達障害を抱える本人は、自身を客観視しづらい。当事者にその感覚がないからこそ、身近にいる家族などの話も大切な診断材料となる。

「発達障害者やその家族、また支援者から、高齢化に伴う生活上の課題や支援の難しさの声は数多く聞かれています」

 こう話すのは、昨年、高齢期の発達障害についての実態を浮き彫りにした初の全国調査「発達障害者支援における高齢期支援に関する実態調査」を行った日詰正文さん(国立のぞみの園)。全国の発達障害者支援センター、地域包括支援センター、社会福祉協議会を対象に、発達障害の診断がある、または発達障害の可能性がある65歳以上の高齢者に関する相談の傾向や支援内容、課題などについて調査した。

 それによれば、全国の発達障害者支援センターへの65歳以上の人に関する相談は、65~74歳が6割以上を占め、相談につながった人の中で発達障害の診断のある人は14.5%。診断に至らない高齢者が8割以上であることが明らかとなった。高齢期になって発達障害を疑い、診断に至るまでのハードルはまだまだ高いことがうかがえる。

 各機関への相談内容として多いのは、「対人関係のトラブル」「こだわりの強さ」「金銭管理ができない」「話を聞かない」など、発達障害の障害特性と思われる理由が挙げられている。

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