「実は認知症と発達障害は誤診されやすい。60代以降になると、よもや発達障害とは思わず認知症と診断されるケースが多いのです。発達障害と認知症には共通点が多くあり、記憶テストを行っただけでは、その区別がつきません」
こう話すのは、認知症専門医として長年診察を続けている河野和彦医師(名古屋フォレストクリニック院長)。
発達障害とは、幼少期からの発達のアンバランスさによって、脳内の情報処理や制御に偏りが生じ、社会生活を送る上で困ることが出ている状態を指す。特定のことには優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手といった特徴が見られる。得意なことと苦手なことの差は誰にでもあるが、発達障害がある人は、その差が非常に大きく、生活に支障をきたすこともある。
発達障害は、行動や認知の特徴によって、ASD、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、LD(学習障害)の三つに分類される。それぞれは重複することもあり、人によっては複数の特性を併せ持つ場合もある。こうした特性は見た目ではわからず、周囲はつい「自分勝手な人だ」などと思ってしまいがちだ。以前はその特性からもたらされる失敗や困難を、「本人の努力不足」「親の育てかたのせい」などと言われることがよくあった。それが脳の機能障害であるということが知られていなかったのだ。
◆昔からかどうかが見極めの基準
日本では2005年に発達障害者支援法が施行されたことで「発達障害」という言葉が知られるようになったが、それがどういう障害なのか広く知られるようになってきたのはごく最近のことだ。発達障害は幼少期に出るものというイメージが強いが、実際には大人の発達障害も存在し、社会に出て強いストレスにさらされるようになってから問題が出始め、成人を超えてから受診するケースも増えている。
ただ、現在の高齢者が若いころには、発達障害という概念自体がなかったこともあり、発達障害を疑い受診するケースはまだまだ少ない。認知症など高齢期に見られる症状に結びつけて考えられがちなのが実情だ。