「素股」を避妊法として教える性教育サイトでは、「相手に主導権を明け渡さないこと」という強い文言が記されている。そこには「同意」の観点はない。相手を拒絶せず、傷つけず、ただ無言でセックスの体位の技術によって自分の身を守れと女の子たちに教える。それは「実践」の場で必要な情報なのかもしれず、実際にサイト関係者たちは「きれいごとじゃ人は救えない」と胸を張っている。が、女性たちが知りたい情報は本当にそこなのだろうか。私が中学生だったとき。電車に乗れば痴漢にあい、街を歩けば性的なからかいの視線を感じ、いつも肩のあたりが緊張していた。自分が成長していくことがとても不安だった。いったいいつまで私たちの身体は「女」として消費されなくてはいけないのか。いつまで私たちは男たちの顔色をうかがわなくてはいけないのか。なぜ、女の子にこの社会はこんなにも「現実を知れ」とムチを打つようなことをし続けるのだろう。
女の子も男の子もどんなセクシュアリティであっても、尊厳がしっかり守られる性教育を「現実的ではない」とはねつける日本の冷酷な現実主義が、世界で今目指そうとしているリアリティーから最も女の子たちを遠ざけているのかもしれない。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表