日本は長い間、エイズ発症者が増え続けた唯一の先進国だった。性感染症を防ぐ教育が行われず、検査体制が不十分だったからだ。私と同世代で国のこういった方針の「犠牲」になった人は少なくないだろう。実際、性教育の現実はずっと変わらずに悲惨だった。例えば2000年代、先日亡くなった石原慎太郎都政下で、性教育は激しいバッシングにさらされた。知的障害を持つ子どもたちに性教育を行っていた養護学校の教諭たちを、石原氏は「異常な信念をもって、異常な指導をする先生」と断じた。安倍晋三元首相らも、05年に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を立ちあげ、性教育への批判や、フェミニズムに対するバックラッシュを先導した。彼らに言わせれば、性教育とは「寝た子を起こす危険な思想」であり、特に女に目覚めてもらっては困るようだった。

 性教育が一般に「危険なもの」としてではなく語られるようになったのは、ここ数年だ。若い世代が性教育に関心を持ち、緊急避妊ピルのOTC化(医師の処方箋なく薬局で購入できる一般用薬品にすること)を求める運動や、生理についての発言もずいぶん聞かれるようになった。性教育関係の本の売れ行きも良い。

 そういう性教育ブームのなか、先日、中高生向けの質問や悩みに答える性教育サイトが炎上した。男の子からの「素股で妊娠ってしますか?」(質問者の性別は現在消えている)、という問いに対し、「安全な素股のやり方をすれば妊娠を効果的に避けることができます」と明言した上で、「安全な素股」の具体的な方法を、性産業で働く女性たちのための情報サイトにリンクを貼って紹介したのだ。

「素股」とは、そもそもそれは性産業でのサービスの名称であり、男性器を女性の股の間に挟み、こする行為だ。実際には誤って挿入されてしまう危険性(または誤って挿入してしまったふりをされる危険性)も高く、女性にとって快感の要素はない。

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中学生の頃の自分を思い出した