分かってはいるが、想像の力は偉大だ。どれだけ大変な思いをしても、また公演を打つのだから。また一からぜーんぶやろうってんだから。
モデルルームで素敵なインテリアに囲まれて、「こんなお部屋で暮らしたらさぞ楽しいわねえ」と夢を見るのに似ている。その夢は現実にはなり得ない夢だ。
だってその夢の中の自分には、蓄積疲労がない。仕事のストレスもない。
結婚生活だってそうかもしれない。
若い頃に夢見る結婚生活のイメージ。
素敵なお家で素敵な旦那様と仲睦まじく生活する甘い新婚生活。
そこに蓄積疲労はない。隣人トラブルもない。
排水溝に溜まる髪の毛もない。請求書の束もない。
実際の結婚生活が始まったら、100の小競り合いを繰り返しなから価値観の違いをすり合わせていくことになる(うちの場合)。
蓄積疲労め!!!
いや、そういう話ではない。
この、楽しい想像力が、我々を突き動かすガソリンになっているんじゃないかと思うのだ。
我々は、現実になり得ない、存在しない想像世界を追いかけ続け、そして走り続けるのだ。
我が子がテレビを見ながら私に言った。
「おかあさん、きょう、これたべたい!」
グルメ番組で紹介されていたのは人気店の、シチュー的な……チーズたっぷりの……なんか、複雑な料理。
想像したのだろう。小躍りするほどの美味しさを。それを頬張る幸せな瞬間を。
私はチャレンジした。
食べたこともないその料理を想像だけで作ってみた。
我が子の、お皿に盛られたそれを見た瞬間の「あれ?」という表情。
もちろん見逃さなかった。
一口食べた。そして何も言わずに別のおかずに手をのばし、二口目を食べることは無かった。
きっと我が子は学んだのだ。
テレビの中のごはんと母が作るごはんは違うのだと。
想像する味と、現実の味は違うのだと。
そう。現実は思ったようにはいかない。
そうやってちょっとずつ、大人になっていくのかもしれない。