「ただ、診断には客観的な指標がなく、患者さんの訴えに基づくため、正確な診断に苦労することも。そのため、身体活動量を計測する機器を身につけてその数値から睡眠の状態を評価することもあります」(栗山医師)
■睡眠薬ごとの特性を理解して使用する
不眠症の治療では、まず患者の睡眠や生活の習慣を改善するための「睡眠衛生指導」をおこなう。原則として睡眠や生活を見直しても改善しない場合に薬物療法を検討する。
「治療選択の際は、患者さんの症状や希望なども考慮します。例えば、生活習慣の改善が必要な人や、薬を使いたくないという人には、まず睡眠衛生指導をおこないますが、眠れないことへの不安が強い場合などは、睡眠薬を使用し、少し眠れるようになって安心した後に生活を立て直すこともあります」(林田医師)
不眠症の治療に使用される薬は、「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」「メラトニン受容体作動薬」に大別される。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、不眠症治療において歴史は古く、脳広範を鎮静させて眠気をもたらす。眠気を自覚しやすいことに加え、不安をやわらげたり、筋肉の緊張をほぐして肩こりをやわらげたりする作用もある。一方で、健忘、ふらつきなどの副作用や、長期使用に伴う依存性、服薬を中止する際の一時的な不眠症状の悪化(離脱症状)など、注意が必要なことも。海外の研究では、この薬が転倒による骨折や認知機能低下リスクを高めるという報告もあり、とくに高齢者への投与は慎重に検討する。
ほかの2剤は比較的新しい薬で、オレキシン受容体拮抗薬は、脳の過剰な覚醒を抑えることで寝つきをよくし、眠りを維持する。メラトニン受容体作動薬は、概日リズムという、からだに備わる24時間周期のサイクルを調整することで、スムーズに眠れるようにする。
「例えば、高齢者で寝つきの悪さに加えて中途覚醒や早朝覚醒がある場合などは、オレキシン受容体拮抗薬を選択することが多いです。一方、昼夜逆転など体内時計の乱れのせいで寝つきが悪い人にはメラトニン受容体作動薬を使用するなど、患者さんの症状や不眠の原因などにより治療薬を選択します」(同)