いろんな患者さんと関わる中で思うことは、人生のエンディングについてもっと考えてほしいということ。みんなおいしいものを食べに行くとなれば、どの店に行くか真剣に選ぼうとするのに、自分が死ぬことについては、場所や過ごし方も含めて、あまりに受け身。わからないからお任せするという「諦めパターン」ではなく、人生の最期をどう過ごすかという大切なことなのだから、もっと考えるべきだと思う。
そのきっかけになればと、同地域の医師である長尾和宏さんと共に、在宅看取りをテーマにした劇団も立ち上げました。医療・福祉に関わる多職種と市民からなるチーム活動も行っています。どの活動も、誰もが人生の最期をどう過ごすかは「あなたが選んで決めていい」ということを伝えたいから。無理せず、自分たちなりに納得できる往生際はどんなものなのか。それこそわがままも許されるときだから、自分本位に考えてみてほしい。こうした“往生際談義”を気軽にしようよ、と投げかけたいです。
◆死後を考えるより、死ぬまでにどうしたいかをもっと考えるべき
中村明澄(向日葵クリニック院長)
これまで800人以上の患者を在宅で看取ってきた。病院での死のあり方に疑問を持ち、本格的に在宅医療の道を志す。「死後」についての議論が盛んな中、「死ぬまでのことをもっと考えて」と患者に寄り添う、その心は──。
私が在宅医療の現場に初めて触れたのは、大学5年生で経験した実習です。訪問診療に同行したお宅で、点滴や採血といった医療行為が病院と同じように行われているのを見たとき、「医療=病院で受けるもの」という概念が覆りました。個々の暮らしに溶け込んだ医療があること、それを必要としている人がいる現実を知り、在宅医療に興味を持つようになりました。
大学卒業後は病院に勤務しましたが、患者が病院で亡くなっていく姿を見る機会が増えるにつれ、「人生の最期を、病院という場所で迎えて本当に良いのだろうか」という疑問が深まっていったのです。