藤井聡太が王将戦七番勝負で4連勝し、19歳6カ月で史上最年少五冠を達成した。名実ともに「藤井1強時代」。なぜこれだけ奇跡的に傑出した実力の持ち主となりえたのか。AERA2022年2月28日号の記事を紹介する。
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記録に興味のない涼やかな顔の青年が、またもや偉大な記録を打ち立てた。
渡辺明王将(37)に藤井聡太竜王(19)が挑戦する王将戦七番勝負は、藤井が4連勝のストレートで制し、史上最年少で王将位に就いた。藤井は竜王・王位・叡王・棋聖とあわせ、史上4人目の五冠同時保持者となり、史上最年少記録も更新した。
最終戦となった第4局(2月11、12日)は、渡辺先手で矢倉となった。両者の過去の実戦例などをふまえ、戦いは1日目からハイスピードで進んでいく。そこで渡辺は一時的に銀を損する驚きの構想を見せた。
「その手が見えていなかったので、そこでどう指せばいいかわからなかった」(藤井)
■「銀引き」を見逃さず
藤井にとっては自信の持てない進行。1日目が終わった時点で持ち時間の消費も藤井が先行し、渡辺は8時間のうち5時間以上を残している。渡辺の戦略はうまくいっていた。
「それでも勝てないのではどうにもならなかったですね」
渡辺は局後、ブログにそう記した。2日目に入って局面は激しさを増す。75手目。渡辺には三つの選択肢があった。当たりになっている銀を逃げるのに、引くか、上がるか。それとも強く打たれた歩を取るか。渡辺は13分考えて銀を引いた。常識的な一手だ。しかしここから形勢の針はわずかに藤井に傾いた。
「銀引きって最悪なの?」
局後の検討で、渡辺はそう苦笑していた。
「対局中はここが重要な分岐という認識はなかった」
とブログに記した渡辺。差がついたのはその次、藤井が自陣の銀を立った手がすばらしかったからだ。
「こちらの玉の耐久力がある形なのかな」
藤井は控えめに、手応えがあったことを述べている。