それまではリビングの小さなテーブルが食卓で、姿勢が悪くなりがちでした。いまは居心地のいいダイニングに家族が集まります。結果、テレビを見る時間が減ったそうです。
勢いで、彼女は各部屋を仕上げていきます。最も手ごわい物置部屋は、息子の部屋に変わり、リビングにはくつろぎのスペースが生まれ、寝室にも和室にも家族の居場所ができました。どんよりと茶色い雰囲気だった部屋の空気が45日間で澄んだように感じたとか。
プロジェクトが終わって彼女は復職しました。
「私が全部やらなくても他のみんなが仕事をする。そうわかったので気が楽になりました。優先順位が家族なら家族で良かったんだって。自信のなさから要らないプレッシャーで自分を苦しめていたんだと思います」
いまは仕事の質は下がらないけど、心持ちは全然違うと言います。
休日は少し掃除すれば部屋が整い、ちょっとイライラしても居場所がたくさんあるから家族と距離を置くことができる。お弁当が短時間で作れる。物が少なくて気持ちいい。仕事や家のこと、彼女を覆っていたあらゆる負担感が少しずつ消えて、気分が軽くなりました。
いまでは、息子の友だちもふらっと遊びに来ます。最近息子は“家の達人”として過ごしながら、主体的に先生や友達とオンラインで連絡を取り、放課後に学校へ行く日もあって、前向きになりました。
彼女は、何かしたいと思った時に、物をよけたり移動したりせずにすぐ取りかかれる毎日を楽しんでいます。プロジェクトの仲間の存在が大きかったと言います。
「いいことって自慢みたいで誰にでも言えるわけではないけど、同じ方を向いて行動する仲間には、作った料理を共有したり一緒にダイエットしたり。片づけ以外にも同じ熱量で関われることがありがたいです」
仲間に誘われた料理教室で教わったパン作りにもハマっています。息子が行きたいと言ったときは、一緒に通って楽しみます。いまは気分的にもスペース的にも家でパンが思いっきりこねられる。そんなことがうれしいようです。
西崎彩智
仕事の悩みを紛らわせるために始めた片づけ 結果的に仕事も生活もうまくいくようになる解決策だった