「患者本人と家族、ケアをする医療者との意見が一致しないことは多いです。本人の意思とは違って、家族の思い、医療者の思い、周りの人の思いが対立構造を示す事も頻回にあります。90歳を超えると、施せる医療は限られてきますが、本人、家族がどうしたいか過剰な医療の期待ではなく、生きがい、生活の満足度、いのちを視点として、もしもの場合を十分に話し合っておく必要があります」(新田医師)

 日本在宅医療連合学会の代表理事である石垣泰則医師は、「在宅医療における医療従事者と、医療を受ける側の患者の双方が安心できるあり方を検討する」としている。

「在宅医療では、病院よりも人間性に突っ込んだ付き合いが患者・家族と医療者の間に生まれます。頼りにしている先生としてみる一方で、望まない状況で最期を迎えると、家族の感情が湧きあがってしまうことは、よくあることなのです」

 鈴木医師を散弾銃で殺めた渡辺容疑者は、2016年ころにも母親の診療をめぐって別の医師を罵倒していたことが報じられている。あらかじめ、事情がわかっていたとしても、医療では患者を看なければならないジレンマがある。

「医師には医師法の中に応招義務があり、『診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならい』という義務を負わされています。看護師や介護教育においても、患者は弱者であるから見捨ててはならないと教えられてきたことから、在宅医療においても問題がある家庭だからといって医療の提供を拒むことはできないわけです」(石垣医師)

 超高齢化社会において、在宅医療は多くの人が選択する手段だ。それを担う人材の安全性に目を向け、具体的な対応が求められている。

(AERAdot.編集部・岩下明日香)

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