被害に直面した在宅医療や介護従事者が「優しすぎる」ことにも懸念を抱いている。

「介護の人なら包丁を振り回しても大丈夫だろうと思われていることがあります。それを訪れてきた宅配便や銀行員にやったら警察を呼ばれます。セクハラも電車の中で起きたら逮捕されること。ところが、介護の人は『怖かったですね』と、サービスの打ち切りで対処します。犯罪として立件する体質が在宅医療や介護にはほとんどないのです。これでは、次の事業所でも暴力や性被害が起きる可能性があるので危険だと思っています」(和田医師)

 全国訪問看護事業協会が2018年に、3245人(うち9.5割女性)の訪問看護師から回答を得た調査では、これまでに利用者とその家族から身体的暴力を受けたことがあると答えたのは45.1%、精神的暴力は52.7%、セクハラは48.4%だった。有効な対策と改善の必要性が示された。

 和田医師は、対策として、(1)セクハラ被害の報告がある所には同性のスタッフにする、(2)1人を避けて2名で訪問、(3)自治体の介護保険課に被害を報告、(4)危険な場合は警察の生活安全課に相談して警察官の同行を求めるなど、行政と連携した安全確保の手段を講じてほしいと訴える。

■終末期のプランを十分に検討して

 医師の鈴木純一さんが亡くなった事件を機に、在宅医療の専門職団体でも議論が始まっている。一般社団法人日本在宅ケアアライアンスの理事長、新田國夫医師は、高齢者の終末期医療を前もって検討する「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」をすすめる。

「80代、90代になると、多くは認知症や誤嚥性肺炎、転倒などによる骨折からADL(日常生活動作)が低下し、心肺機能が弱り、心不全、呼吸不全になります。人間の限界値に達する時をどうするのか。ACPとは、前もって本人の意思形成を促し、表明することです。家族とケアをする看護師や医師を含めて計画を立てることです」

 ただ、あらかじめプランを立てていても、実際には自分の思いとは違う事が生じてくるという。

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医師法の応招義務で「拒む」ことはできない…