「看護師の監視目的ではなく、ご家族の安否確認のためだとは思いますが、視られていると感じることはあります。実際に、映像を基に『あの時、何をしていたんですか』とご家族から問い合わせをいただくことがあります。録音やスマホで動画を撮られることもあります」(訪問看護師Bさん)
他にも、看護師は入浴介助や血圧測定の時に男性患者からセクシャルハラスメントを受けることもしばしば。引火すると危険な酸素ボンベの横でタバコを飲む肺がんの患者もいた。ゴミ屋敷の家では、玄関を開けたらゴミ山を這い登って、物と物に挟まれたまま寝返りすら打てない患者のケアにあたることも……。
様々な家庭に踏み込むのだが、特に精神的に堪えるのは、患者家族による人格否定ともいえる言葉のハラスメントだと、前出の看護師Aさんは言う。
「気管切開した患者の痰を引いていると、『あんたそれで本当に看護師なの?』などと、ずっとクレームを言い続ける奥様がいて、メンタルをやられた看護師が退職してしまったことがありました。優秀な看護師でしたが、担当を変えると説得しても、もう続けられなくなってしまうところまで追い詰められてしまいました」(訪問看護師Aさん)
その妻は、夫が気管切開をした時にも病院に対して「なんで手術したのか」と怒っていたようだ。夫が気管切開により命をつなぎとめた――妻はこの“不満”を医療従事者に八つ当たりしていた。
「今までは、病院や施設で行ってくれていた食事や排泄の世話、吸引などを全て奥様が介助してやらなくてはならなくなり、時間の拘束感やプレッシャーなどから、看護師に八つ当たりのような言葉をぶつけて来たのかもしれません」(訪問看護師Aさん)
何人もの看護師が入れ替わった末、弁護士の介入で訪問看護の契約を解除した。
■「優しすぎる」在宅医療・介護スタッフに懸念
30年以上にわたり在宅医療に携わる「いらはら診療所」(千葉県松戸市)の和田忠志医師は、「安全な職場環境を保障する議論が在宅医療には欠落している」と指摘する。
「国や専門職団体も在宅医療のポジティブな面だけを発信し、人材を増やそうとはするものの、労働者が危険な目に遇うことに対してはこれまで関心を払って来ませんでした。密室の在宅医療は、病院と比べて事故や被害に対するシステムが非常に脆弱。ヘルパーがインシュリン注射の針を踏む針刺し事故や犬にかまれることも珍しくなく、多くは泣き寝入りするのが実態です」