ふじみ野市で鈴木医師が撃たれた事件によって、自身の体験がよみがえったという。

「明日は我が身と思い、怖くなりました。母親の死を受け止められなかったのですから、もしあの息子さんも銃を持っていたら、私に向けて撃ってきてもおかしくなかったと思いました。息子さんは介護の仕方に独特の持論を持っており、医療として『こうした方がいいですよ』といっても聞く耳を持たない人で、とてもこだわりが強い人でした。病院であれば、家族に『離れていてください』といって治療に専念できるのですが、在宅医療では家主が主導権を握るので、私たちは言えなくなってしまうことがあります」(訪問看護師Aさん)

 大往生の末、最期を家で家族と一緒に過ごし、看取られることを望む高齢患者やその家族が在宅医療を利用することが多い。最期の望みをサポートすることに意義を抱いていた看護師Aさんは、「患者・家族のためを思った医療なのに、看取りで訴えられたり、事件が起きたりすると、在宅医療をできなくなる」と嘆いた。

■カメラで「監視されている」緊張感

 別の訪問看護ステーションの看護師Bさんは、患者から刃物で脅されたことがあった。

「自分の思っていることを伝えられない病状の患者さんから、『どうして伝わらないんだ』という意思表示として、包丁やトンカチを振りかざされたことがあります。ちょっとイライラするとすぐ持ち出します」(訪問看護師Bさん)

 看護師に対して自分の要望を理解してほしいがための表現方法だったようで、看護師Bさんが「しまってください」といえば、刃物などをしまう患者だった。

「病院であれば、刃物を持ってくる人はいませんが、一般の家庭では包丁は必ずあります。なかには日本刀をコレクションされている人もいます。今回の事件を受けて、いつまた同じような事件が起きてもおかしくないと思っていました」(訪問看護師Bさん)

 病院なら他の看護師や警備員にすぐ助けを求めることができる。だが、在宅では看護師が1人か少人数で患者宅に訪問するため、想定外の危険に遭遇したら対処しきれない。さらに、最近では認知症の高齢者がいる家庭に、見守りのためのカメラを設置しているところも増えてきた。それにより、危機感だけでなく「監視さている」という緊張感にもつながっているという。

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患者家族からの「人格否定」ハラスメントも…