「健康な人と比べて1~2割しか食べられないなら、なんでも好きなものを1~2割でも食べられたらいい」(桜井医師)
また、家族の判断で本人が食べたいものとは違うものを食べさせようとすることも、本人にとって負担になりがちだ。例えば末期がんで食が細くなり、のみ込む力が弱くなってきた患者の場合、本人は「サンドイッチが食べたい」と言うが、家族が「のみ込めないだろう」と判断し、良かれと思って、喉越しがよく食べやすいゼリーやプリン類を与えようとする。たとえ良かれと思っても、本人が食べたいものでないものは、思わぬ心理負担を招くことになる。
◆頑張らない選択 終末期には必要
前出の大軒さんが言う。
「ほんの一口であっても、自分が食べたいものを食べられたら、満足感につながる。“歯がないけどトンカツが食べたい”なら、薄い豚肉を揚げて食べやすく切った“トンカツ風”にして出すなど、工夫すれば食べることができる。お酒が飲みたいと言う患者の希望に、家族が拒否感を示すこともありますが、終末期に飲める量は、お猪口一杯にも満たない量だったりする。それでも口にできたら、本人にとっては満足なのです」
終末期になると、「頑張る選択」ではなく、「体力温存」にギアチェンジしていくことも必要になってくる。治療が可能な時期は、希望を持って頑張って治そうとすることが大切だが、回復が見込めない症状や老衰が進行している終末期は、時に「頑張らない」選択が必要になる。終末期に「治そう」と頑張ってしまうと、大切な時間を失うことにもなりかねない。また頑張って体を動かそうとすることで、寿命を縮めてしまうことにもなりかねないという。
見守る家族としては、患者を思うあまりに「もっと頑張って」と食べさせたり、寝たきりになっては大変だとリハビリで歩かせようとしたりしてしまう。死期を察してもなお、患者本人も、そうした家族の思いに応えようと、無理をしてしまうことがある。がん患者の中には、「抗がん剤はつらいからもうやめたいけど、家族がやってほしいと言うから」と無理する人も少なくないという。