(週刊朝日2022年3月11日号より)
(週刊朝日2022年3月11日号より)

 また入院すると、本人が「食べたくない」と言っても、基本的には一日3食の食事が提供される。中にはカロリーを多く取るために、甘いジュースのようなものが出されることも。患者の中には「おいしくない」「飲みたくない」と嫌がる人もいるが、看護師は「体重を減らさず栄養を効果的に取るために飲みましょう」と促す場合がある。

 大軒さんは言う。

病院は“治療する場”なので、死期が近づいている状態でも、口から食べることができる限り、食事の提供は続きます。しかしそれが患者にとって、大きなストレスになることもある」

 多くの在宅医が家族から質問を受ける中に、「本人が好きなもの、食べたいというものを食べさせていいのかどうか」ということがある。患者本人の症状や身体の状態にもよるが、在宅では「基本的には食べたいものを食べていい」とする医師が多い。

 兵庫県で家での看取りを25年にわたって支援し続けている桜井隆医師(さくらいクリニック院長)は言う。

「楽しみであるはずの食事が苦痛にならないように、在宅療養生活ではできる限り本人の好みを優先したらいい。例えば、吐き気があるにもかかわらず、カレーライスを食べたいという人がいれば、食べていい。ただし、誤嚥には注意すること。嚥下が困難な場合は食材を刻んだり、とろみをつけてのみ込みやすいように工夫することも必要」

 反対に「食事を食べない」「食べるのを嫌がる」など、食欲の低下は、家族が不安になる要素の一つだ。食欲の低下には、視覚や嗅覚、味覚の障害や、歯の不具合、咀嚼・嚥下機能の低下、睡眠不足、薬の影響などもあれば、料理の味付けの問題もある。また、排泄介助の負担を気にして食事や飲水量を減らしてしまうということもありうるという。

 こうした要因を考慮しつつも、最期が近づくごとに、「食べたいのに食べられない」のではなく、「欲しくないから食べない」という状態になってくる。食べられなくなる患者を目の当たりにすると、「なんとかして栄養を与えたい」と考えるのは、家族の素直な思いであり、切なる願いだ。しかし、あまり無理に食べることを強制すると、かえって本人の負担になってしまう。

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