2000年代に入って、少子高齢化により18歳人口が急激に減っていくにもかかわらず、大学の数は増えていきます。大学は経営難に陥らないよう多くの学生を集めるため、大学で学業を続けるのが困難と予想されるような学生もスポーツ推薦で受け入れるようになりました。ノンエリート体育会系がどんどん増えます。一方、エリート体育会系の数は変わりません。

―――それによって就職活動ではどういうことが起こったのでしょうか。

 ノンエリート体育会系の増加は個々の大学の経営状況を安定させます。その大学は盛り上がるでしょう。大学スポーツに新しい展開を作り出し、これまでの古い体質を改革する礎にもなるかもしれません。しかし、ノンエリート体育会系には、大企業社員の椅子までは十分に用意されません。大企業はこれまでのような評価基準でエリート体育会系を採用しているからです。つまり、「威信の高い大学」「伝統的チームスポーツ」「男性」の3つの要素からなるエリート体育会系が、今日まで体育会系神話の存続を支えてきたといえます。威信の高い大学とは、具体的にいえば、国立大だと旧帝大、東京工業大、一橋大、筑波大、横浜国立大など、私立でいえば早慶・GMARCH・関関同立などであり、伝統的チームスポーツとは、野球、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール、バスケットボールなどがあげられます。そして、これまでは女性はエリート体育会系でも男子と同じようには、就職市場でなかなか評価されませんでした。

―――すると、就職における体育会系神話が崩れてしまったのでしょうか。

 いいえ、エリート体育会系はそのまま温存されています。問題は、中小私大の経営問題克服のために、ノンエリート体育会系が大量に生み出されてしまったことにあると見ています。ノンエリート体育会系の学生がおかれている現実は想像以上に厳しい。

 スポーツ推薦、特に特待生で入学する学生は「推薦」ゆえ部活動をやめられなかったりする。スポーツで時間を使うのに、最近では授業でも出席を厳しく取るようになって、勉強にしっかり取り組まなければならなくなった(これはある種当たり前なのですが)。また、試合や合宿など遠征するのにお金がかかり、アルバイトをしなければならない。就職活動をする時間がなく、インターンシップもできず、明らかに一般の就職活動では不利になっているものと考えられます。

 中小の大学の中には、スポーツ推薦の学生への学習指導・就職指導に十分なリソースを割くことができないところが多くあります。そのような大学のスポーツ推薦学生は、就職活動のやり方すらわからないまま、卒業間近になって進路が決まらず頭を抱えるということになりがちです。

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