流用可能額の上限など
規制を強めるべき
コストカットは、おもちゃを買うための保育材料費にまで及んだ。都に情報開示請求した監査資料によれば、保育中堅の株式会社こころケアプランが運営する認可保育園で、園児1人に対して(消耗品も含め)月2千円の予算しか組まれていなかった。20年の都の現場視察では、2歳児クラスで出ていた絵本は10冊程度、人形は裸で洋服は全て紛失したまま。豊かな保育環境を提供するよう助言した、とある。
このような半面、労働条件が良く質の高い保育を目指す園もある。都内で社会福祉法人が運営する認可保育園で働く56歳の女性は、保育士5年目で年収は約470万円。年に約10万~12万円ベースアップする。園児それぞれの発達を考えた良質なおもちゃがそろい、「保育士も園児も大切にされる保育園で働き、毎日が楽しい」と充実する。
東京きぼう法律事務所の寺町東子弁護士は保育士資格も持っており、こう指摘する。
「本来、全ての保育園が最低限の保育の質を備えていなければならない。保育園によって保育の質に差があってはいけない。政策目的以外に委託費が使われないよう、流用可能額の上限などの規制を強めるべきです。一定水準の人件費を支出させ、行政が厳しく監査しなければなりません」
そして、保護者や保育士にもできることがある。東京都は保育園の財務情報と賃金実績を現在、インターネットサイト「とうきょう福祉ナビゲーション」で公開している。園の費用がどれだけ園外に流用されているかを知るには、財務情報の「事業区分間・拠点区分間・サービス区分間繰入金支出」を見る。他園のデータと比べた保護者が保育材料費の低さを本部に指摘し、保育士が賃金の低さに声をあげることで改善した例もある。
国の子育て関連予算は22年度で約3兆2600億円。そのうち、保育園や幼稚園などの保育者の人件費を含む運営費が1兆6千億円を占める。税金が正しく使われ保育の質が守られるよう、皆で目を向けたい。(ジャーナリスト・小林美希)
※AERA 2022年8月8日号より抜粋