政権とオリガルヒに

 ロシアはウクライナ情勢をめぐっても、多くの偽情報をまき散らしている。開戦前には「ウクライナの現政権はネオナチだ」「ウクライナは核兵器を開発している」などと主張して、攻撃を正当化。開戦後も国連の場で「ウクライナで米国が生物兵器を研究している」と訴えた。

 多くの国からこうしたロシアの手法は批判されているが、ロシア国内では多くの人々が、政府の主張を受け入れている。繰り返し大量の情報を流すことで、ロシア国外でもじわじわと影響力が広がっていることも否定できない。

 KGBの出身者は、プーチン氏周辺の人脈にも広がっている。ここでプーチン氏が期待するのは「絶対的な忠誠心」という側面だろう。

 政権内では、大統領府長官の経歴があるナルイシキン対外情報庁(SVR)長官や、プーチン氏の後任のFSB長官を務めたパトルシェフ国家安全保障会議書記が代表的な存在だ。

 表の人脈だけではない。プーチン政権を裏から支え、「オリガルヒ(政商)」と呼ばれる大富豪にも数多い。

 ロシア最大の石油会社ロスネフチのセーチン社長は、プーチン氏がサンクトペテルブルク副市長だったときからの忠実な部下で、KGB関係者だったことは確実とみられている。

 兵器の開発や輸出を手がける国営企業ロステフのチェメゾフ社長はKGB時代、東ドイツのドレスデンで、プーチン氏と同じアパートに住んでいた。

早期対話の呼びかけも

 今回の戦争では、オリガルヒの中からも、疑問を呈する者や早期の対話を呼びかける者が出ている。アルファバンクグループを率いるフリードマン氏、アルミ王デリパスカ氏、ニッケル王ポターニン氏らだ。

 だが、彼らは、いずれもKGBとは関係ない。ソ連崩壊後に国有企業の民営化を進めたエリツィン政権時代に巨万の富を築き、プーチン政権とも折り合いを付けて生き残った面々だ。

 彼らの声に、プーチン氏は耳を傾けるだろうか。おそらく、期待薄だ。

 エリツィン時代からのオリガルヒはやはり信用ならない、頼りになるのはKGBや古い友人といった、自分が引き立ててきた連中だと考えて、耳の痛い意見には心を閉ざすのではないか。そんな懸念がぬぐえない。

(朝日新聞論説委員元モスクワ支局長・駒木明義)

AERA 2022年3月28日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?