それでも実際に手放してみると、残しておけばよかったと後悔する物はそれほどありませんでした。物を通して自分と向き合い、対話をしながら「いる・いらない」の選別を繰り返すことによって、決断力と判断力が上がってきます。さらに、物に占領されていたスペースが空くと、そこでいろいろなことができる可能性があると気づきました。物を手放すという作業が、ネガティブなものからポジティブに変わった瞬間です。
「これがなくなると、新しい未来が作れるんだと思うようになりましたね。そう思うと、無心で物を手放せるようになりました」
どんどん物を捨てるようになった妻の様子に、夫は驚きを隠せません。でも、家の中がスッキリしていくことは気持ちよく、片づけに協力してくれました。ゴミ出し担当の夫は「今日は3往復もしちゃったよ」と笑い、もともと仲のよい家族のコミュニケーションはさらに増えました。
家の中が片づいたら、夫の帰宅時間が早くなり、次女はいつでもすぐにヴァイオリンの練習ができるようになりました。きれいに整頓されたキッチンで料理の腕をふるい、月に1回ほど帰ってくる長女と4人で明るい食卓を囲みます。夫と娘たちは「ママのレストランみたいなおいしい料理が1番だから、外食なんてしなくていいよ」と言ってくれるそうです。
「使いたいアイテムがすぐに取り出せるようになり、もともと好きな料理がさらに楽しくなりました。娘が手伝いたいと言ってくれたときも、今まではスペースを作る手間がありましたがそれもなし。『私も料理を覚えられる!』と喜んでくれます」
片づけを通して、自分を知り、自分の未来を見て、自分の可能性を信じられるようになった亜紀さんは、これからも自分の未来のために挑戦し続けます。
「今までは小説とか美術とか、想像の世界に入り込むような本ばかり読んでいました。でも最近では、自分と向き合って分析するような本を読んで勉強しています。今の自分が何をすることに喜びを感じて、今から何をしていこうか、いろいろと考えるのが楽しくなってきています」
物への執着から解放された亜紀さんの目線は、過去から未来へと変わりました。自信を持って突き進む先には、きっとワクワクすることが待っていることでしょう。
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