夫は仕事が忙しく、家のことに口出ししないタイプ。家族みんなであきらめていたし、私がいつも家事に追われてピリピリしていたので、文句を言わせない雰囲気を作っていましたね」
亜紀さんは当時を振り返り、そう話してくれました。専業主婦とはいえ、家事に育児に忙しい毎日です。娘たちの習い事の送迎は週5日あり、お昼休みも取りにくい夫のために毎日お弁当作り。その上、常に探し物をしたり、家事を始める前に物をどかす作業が入ったりと、ムダな動きが多い生活でした。よけいな時間が取られるばかりで、リビングのソファに座る暇もありません。
そんな中、美大を目指す長女の新たなチャレンジを機に、自分も家を片づけようとプロジェクトに参加しました。
「私は片づけについて、『4人家族の物の量はこれくらい』という物理的な基準やノウハウを学ぶつもりでした。でも、『どんな自分になりたいの?』『その自分になれない理由は?』と、一見片づけには関係ないことを掘り下げていくことに驚きました」
プロジェクト参加中に、物に執着する理由がわかった亜紀さん。理由がわかっても、物を手放すことはとても大変でした。
特に海外赴任先から持って帰ってきたものは、慣れない土地で苦労して生きてきた証のように感じられて、使い古した日用品も捨てられません。一度手放すと、日本では手に入れることが難しいことも亜紀さんの心にブレーキをかけてしまいます。
「段ボール箱の中身を全部出して広げることを繰り返して、改めて物の量に唖然としました。一つ一つに思い出があるので、選別して一度捨てても、やっぱり考え直してゴミ袋から取り出してみたり……」
物への思いが強い亜紀さんにとって、物と向き合うことは過去の自分と向き合うこと。とてもパワーが必要でした。物を捨てたり手放したりする作業に疲れ果て、大量の物に囲まれながら「なんでこんな自分を自分で作ってしまったんだろう」と泣いた夜も一度ではありません。